私、矢野治は、ヤクザ渡世の親として、住吉会の本部長にまで昇格した幸平一家のある幹部(故人)に師事し、崇拝しておりました。その親分のところに企業舎弟として出入りしていたのが、龍一成です。その縁で私も龍と親交を持ち、彼に金を貸すなどしていました。多い時で1億円は超えていましたが、それなりに返済をしてくれていました。しかし98年に入ると、やつも金が回らなくなってしまった。返済が滞り、8600万円が焦げ付いてしまったのです。追い込みをかけ続けた私に、ある時、龍はこう提案してきました。
「『川崎定徳』の佐藤さんが亡くなった後、会社の資産を受け継いで、管理している男がいる。不動産会社を営む桑野大樹社長(仮名)です。佐藤さんの跡を継いだのだから、それなりの物件を多数持っている。奴を攫(さら)って脅す。権利関係の書類を奪い、それから殺します。矢野さんのところの若い衆を2人ほど貸してほしい。8600万円を2億円にして返しますから」
龍の話では、桑野社長は、住吉会の大幹部にも挨拶に行っていると言います。そこで私は、先に述べた親分に相談した。すると、
「とんでもない話だ。絶対、桑野を殺(や)らせるな」
と言われたのです。それで、私は龍に、
「大幹部と親交のある桑野を攫うことは許さん」
と言い聞かせました。しかし、やつは、
「もう俺にはこの手段しか残されていないんだ」
と、聞く耳を持とうとしません。そこで私は、幸平一家のある組長に頼んで、龍の監禁場所としてその組事務所を使わせてもらうことにしました。
「おまえの仕事を手伝う人間が待っている」
と言って、龍を呼び出し、東京・要町にあった、その事務所に連れて行きました。組長には大きな檻を用意するよう予め依頼していたので、事務所に入るなりこの檻に龍を入れたのです。
こうして3日間、彼を檻に閉じ込め、翻意を促した。しかし、やつはウンと言わなかった。やむなく私は決意したのです。もともと彼には糖尿病の持病があり、いつ死んでもおかしくないくらい、体が弱っていた。私は怨念を抱きながら、その首にネクタイを巻きつけました。彼の命を奪うということは、私の債権も回収できなくなることを意味するからです。抵抗する力も残っていない龍の首を絞めあげました。ほどなくして龍は絶命したのです。
私はすぐに矢野睦会の配下である結城実に電話を入れました。
「結城よ。悪いが、龍を殺ったから、死体を山に埋めて、始末してくれ」
結城がどこに龍の遺体を埋めたのかまでは、敢えて確認していないので、分かりません。あとは結城に聞いてください。